よく日本は「察しの文化」と言われます。
たしかに、日本人って相手の顔色を見て、言葉を選びますよね。
そうですね。
特に欧米系の学習者へ「察する」ということを教えるのは難しいです。
その理由は、国による文化の違いなんですよ!
高文脈・低文脈の言語って?
「高文脈文化」「低文脈文化」という概念は、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールによって分類されました。
「高文脈の文化(言語)」とは、いわゆる「察しの文化」です。言葉として表現された内容よりも、言葉以外の状況や文脈に重要な意味を含みます。遠回しや曖昧な表現、身振り手振りや視線などの非言語コミュニケーションが大きな役割を持ちます。 高コンテキスト文化(言語)とも言われます。
(例) A「この部屋、暑くない?」
B「そう?窓開けようか?」
→Aさんは「窓を開けて」とは言っていませんが、Bさんは「Aさんが暑いと自分に言ってきた=窓を開けて欲しいんだろう」と察しています。
日本人にとっては当たり前すぎて、もし窓を開けなかったら「この人、空気読めないな・・・」と思われる可能性もありますよね。
人の気持ちを察するのは、いくつになっても難しいものです・・・。
「低文脈の文化(言語)」とは、「言わなきゃわからない!」の文化です。
言葉として表現された内容のみが情報としての意味を持ちます。会話の裏を察する必要はなく、発された内容をそのまま理解します。欧米に多い文化ですが、最も代表的な例としては、ドイツ語が当てはまります。
また、低コンテキスト文化(言語)とも言われます。
グライスの公理
いきなり「公理」??数学???と思ったかもしれませんが、大丈夫です!
グライスとは、イギリス出身の言語学者です。グライスは、人は4つのルールに従って会話を進めていると分析しました。4つのルールを見ていきましょう。
質の公理
これは、自分が違うと思っていることや、確信していないことは言わないことです。
つまり、嘘をついてはいけません!
もちろん時として、空気を読んで嘘をつくこともありますが(「新しい髪型、似合ってるよ」とか・・・)、基本的には「真実を話す」という合意のもとで会話は進められているのです。
量の公理
これは、必要とされている情報を提供し、必要以上の情報を与えないことです。
以下が、量の公理に反した例です。
A:「明日の新宿の天気知ってる?」
B:「うん、新宿は晴れで、大宮はくもりで、沖縄は30度を超えるらしいよ!」
→Aさんが知りたいのは、「新宿の天気」です。でもBさんは、新宿の天気だけでなく、余計な情報を伝えているので、量の公理に反しています。
関係の公理
これは、場面と適切な関係性を持っていることだけを言うことです。
関係の公理に反した例です。
A:「ランチはどこ行こうか?」
B:「兄が今度結婚することになってね、それで結婚式の場所がさあ・・・」
→Bさんは関係のない話をいきなりしています。よって、関係の公理に反しています。
様態の公理
これは、不明瞭や曖昧な表現は使わないということです。簡潔に、順序立てて相手がわかるように話します。
様態の公理に反した例です。
A:「この薬は1日何錠飲めばいいですか?」
B:「えっと、1日3〜5錠飲んでください。」
→自分がAさんだとして、こんな不安なことはないですよね。「3〜5錠」とはなんとも曖昧な表現です。
恥の文化と罪の文化
「恥の文化」「罪の文化」は、アメリカの文化人類学者であるルース・ベネディクトが日本の文化を説明した「菊と刀」という本で定義しています。
「恥の文化」とは、世間体や周りからの目を気にする日本の文化を指しています。恥をかきたくないという気持ちが強く、周りに笑われたくないので、常識的な行動をとります。
例えば、ゴミのポイ捨てをしなかったり、列を作って並ぶのは人の目を気にしているからです。
「罪の文化」とは、自分の内面にある良心を基準に行動する欧米の文化を指しています。これは、欧米はキリスト教圏であるため、「常に神に見られている」という宗教的意識があるからです。他人の目よりも、絶対的存在である神が自分を見ているので、良心に反した行動をしないのです。
先程の例で言うと、欧米人がポイ捨てをしないのは、神に見られているという意識があるからです。
Pタイム文化とMタイム文化
これは、エドワード・ホールが著書「文化を超えて」の中で記述している、人によって異なる時間の捉え方です。
「Pタイム文化」とは、多元的時間を持つ文化のことです。Pタイム文化の人は、時間軸が2つ以上あるので、同時に物事を進めることができます。いわゆる、マルチタスクですね。人間関係に重きを置く特徴がある反面、時間にルーズな面もあります。
「Mタイム文化」とは、単一的時間を持つ文化のことです。Mタイム文化の人は、Pタイム文化と異なり、時間軸は一つです。一つのことに集中し、時間や締め切りはきっちり守ります。一つの時間軸に集中しているため時間を守る、ということです。
Pタイム文化、Mタイム文化の分類は、「日本人はこれ!」というのではなく、人によって異なります。
わたしがおもしろいと思ったのは、養成講座の先生が「日本人は、会社の始業時間はきっちり守るMタイム文化なのに、終業時間は守らないPタイム文化」と話していたことです。
ほんとにそれ!!!
一概に、どちらの文化がいいとは言えませんが、このような考え方を知っていると、人間関係を円滑に運ぶために少し役立つと思いませんか?
「ああ、この人は私と違う時間の捉え方をするんだな。」と思えたり(思えなかったり)しますよね。
みなさんは、自分はPタイム文化、Mタイム文化のどちらに近いと思いますか?
わたしは、Pタイム文化に近いかなと思います。
語用論まとめ
学習者へ日本語を教えるときは、このような文化の違いも理解してもらう必要があります。
状況や相手に応じた言葉選びができることは、時として文法的な正確さよりも大切です。日本のマナーや常識を身につけることは、学習者自身の身を守ることにも繋がるとわたしは思っています。
日本の文化やマナーを勉強することで、学習者の日本での生活が快適で楽しいものになるといいですよね!